透析患者の高齢化と糖尿病による腎不全患者の増加に伴い、足のトラブルが増えています。例えば糖尿病などで動脈硬化が進むと、足への血流不良が起こり冷えやしびれ、痛みが現れます。小さな傷ができた場合でも、悪化して傷が大きくなり潰瘍形成、壊死、最終的には下肢切断に至る場合もあります。
また、糖尿病性神経障害があり感覚が鈍くなっている方、視力障害がある方は特に傷をつくりやすくなっています。
基礎疾患によらず血流不良を有する方は、血糖コントロール不良、靴擦れ、深爪等が原因となって、急速に悪化して切断に至る事があります。足のトラブルを回避するため、予防、早期発見・早期治療が重要です。当クリニックでは血流評価、定期的観察、セルフケア指導に力をいれています。
PAD(末梢動脈疾患)について
末梢の動脈硬化のため(主に足)、血液の流れが悪くなってしまう疾患です。
PADの中には閉塞性動脈硬化症(ASO)、バージャー病、自己免疫疾患による血管炎などがありますが、高齢者や糖尿病患者の増加に伴い閉塞性動脈硬化症が圧倒的に多くなっています。
末梢動脈疾患は症状によって重症度別に4段階に分類されます(Fontain分類)。
Ⅰ度 | 無症状または冷感、しびれなどの自覚症状 |
Ⅱ度 | 歩行時に足が痛くなったり、しびれたりして歩行困難になるが、少し休むとまた歩行できるようになる症状(間歇性跛行:かんけつせいはこう という) |
Ⅲ度 | 安静にしていても足が痛む状態 |
Ⅳ度 | 足の潰瘍・壊疽に陥ってしまった状態 |
PADの危険因子:
加齢・高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙などに加え、腎不全、透析患者に特異的な危険因子としてカルシウム・リン代謝異常、慢性炎症、酸化ストレス、貧血など。]
測定
SPP(皮膚潅流圧)測定
全患者対象に、定期的にSPP測定を実施しています。
SPPとは
レーザーを用いて毛細血管レベルでの血流を測定する検査です。正常値は80mmHg前後で、50mmHg以下の場合PADが疑われます。さらに40mmHg以下では、傷が完治するのが困難といわれています。
測定方法
透析中に仰向けになった状態で行います。測定時間はおよそ10~20分。足裏にレーザーセンサープローブをあて、その上からカフを巻き加圧します。
加圧後に減圧していき、毛細血管の血流がどのくらいの圧で再び流れるかを測定します。
検査・治療への流れ
SPP測定の結果、血流不良が疑われる場合や、間歇性跛行などの症状が出現した場合、画像検査(造影CT,MRI)を施行しています。画像検査の結果、必要に応じて循環器内科や血管外科受診をして、相談の上治療方針を決めます。
画像検査、診察、治療においてはグループ病院である戸田中央総合病院や、その他近医の専門医と連携を図っています。
当クリニックでの治療
積層型透析器H12ヘモダイアライザーの使用
透析器の一種です。近年、足の血流の悪い方に使用すると血流改善があるという報告があり使用しています。
LDL吸着療法の施行
動脈硬化の原因となるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を血液中から取り除き、血管を広げ血液の流れを改善する治療法です。当院では下肢切断の可能性が高かった患者様にこのLDL吸着療法を行うことで、切断を免れた症例を複数経験しています。
薬剤治療
血流改善目的にて、末梢血管拡張薬Lipo-PGE1(リプルⓔ)を透析
終了後に点滴したり、抗血小板剤を内服します。
足病変についておさえておきたいポイント
水虫(白癬)
真菌(カビ)の一種である白癬菌が皮膚に感染して起こる病気で、病変の部位により、足白癬、爪白癬、手白癬などに分類されます。
特に足裏の白くカサカサしたものは、足白癬の可能性があります。そのカサカサした皮膚の粉から菌がばらまかれて感染します。
爪の中に感染したものを爪白癬といい、最初は爪の色が白っぽくなるだけですが進行すると爪が盛り上がった状態になり(肥厚)、ボロボロと崩れます。また、分厚くなった爪は、外からの圧迫を受け皮膚にダメージをあたえる危険があります。
糖尿病患者や下肢血流の悪い患者においては、白癬による二次感染が原因となり下肢潰瘍へと進展するケースもあります。そのため、正しく外用剤が塗布できているか、またその必要性を理解していただくよう指導と経過観察を行っています。
巻き爪(陥入爪:かんにゅうそう)
爪のトラブルの中で多いのが巻き爪です。爪が横方向に巻いている状態をいい、靴などの圧迫や深爪、遺伝、寝たきりなどで歩行をしなくなった状況が要因といわれています。巻き爪の問題点は、爪が皮膚にくい込み痛みを伴ったり化膿すること、感染して炎症を起こしてしまうことです。
また、爪が切りづらいため、爪切りの際に傷をつくり出血させてしまったり、爪が切りにくく、長く伸ばしたままになっているケースも少なくありません。
高齢者や視力障害のある患者さまに対しては、フットケアスタッフがケアをすることもあります。
胼胝(たこ)・鶏眼(うおのめ)
胼胝(たこ)
長期間にわたり摩擦や衝撃などの外的刺激を受けつづけることによっておこり、スポーツや職業、履物、筆記用具、正座などが誘因になり、足裏、足の指の付け根、かかと、手の指などに生じます。
症状は皮膚の表面にある角質が部分的に厚く硬くなりますが、鶏眼と違い表面的なもので症状がないことがほとんどです。
カッターやはさみで胼胝部分を処置したりすると、潰瘍形成につながりとても危険です。角質を柔らかくする軟膏を塗布して、フットケアスタッフが透析中に削るようにしています。
鶏眼(うおのめ)
長期にわたり摩擦や衝撃などの外的刺激をうけることによって生じます。
誘因は、足に合わない靴の着用や、足の変形(外反母趾)、姿勢が悪く体重が偏っている場合などがあり、足裏、趾間(ゆびの間)、趾背(足のゆびの表面)に生じます。
皮膚の角質が厚く硬くなるため、外見は胼胝と同じように見えますが、鶏眼は皮膚の深部に向かってくさび状に厚みを増していくため、痛みを伴います。
深くまで角質が奥の方に入り込んでる場合もあり、誤った処置をすると症状が悪化するため、皮膚科を受診して頂きます。
低温やけど
体温よりやや高い温度(42~50℃)のものが長時間触れていた場合に、赤みや水膨れなどの症状を起こす火傷です。
原因となるものは、湯たんぽ、ホットーカーペット、使い捨てカイロ、こたつ、電気アンカなどです。
熱傷や炎での火傷は、表面のダメージが激しく、内部にいくほど軽くなっています。しかし低温やけどは、ほとんど痛みがなく赤くなっている程度でも、内部の細胞組織が壊死し潰瘍状態となります。
糖尿病患者さまは神経障害があり感覚が鈍くなっている場合が多いため、特に注意が必要です。
低温やけどについて、パンフレットを作成し指導を行っています。